円形脱毛症は、発症した本人にとってとても残酷な疾患です。
この病気を発症しても体調は崩しませんし、命にも関わるわけではありません。
しかし、円形脱毛症が重症化すると、髪の一部がごっそり抜け落ちてしまうのです。
見た目の問題に関わるので、発症した方は、激しく心を痛めてしまいます。
円形脱毛症の知識を深めることで、その辛さを和らげることに繋がるかもしれません。
今回は、円形脱毛症の症状や原因、治療方法などについて解説します。
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円形脱毛症とは
円形脱毛症(Alopecia Areata:AA)とは、文字通り、頭髪の一部が円形や楕円形に脱毛してしまう疾患です。
幼児から高齢者まで幅広い世代で男女の性別問わず、誰でも発症する可能性がありますが、比較的、20代~30代が多い傾向があります。
日本国内の患者数は、約100万人以上いると推計されています。
長年、精神的なストレスが原因とされていましたが、最近の研究では、主に免疫機能の異常によって発症するということが分かってきています。
円形脱毛症の定義
2017年に公益社団法人日本皮膚科学会の「円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」にて、円形脱毛症は以下の様に定義されています。
円形脱毛症の定義:円形脱毛症(alopecia areata:以下 AA)は後天性に類円形の脱毛斑を生じる疾患で、重症例では増悪・軽快を繰り返しながら脱毛斑が拡大することが多い。
医療機関の皮膚科を受診する脱毛疾患の中では最も頻度が高く、治療に難渋する。
毛包と爪甲以外の臓器は侵さないが、外見上の印象を大きく左右するので患者自身の悩みは深く、生活の質(QOL)にも大きく影響する。
専門用語が多く含まれていて読みにくいと思うので、簡単に要約すると以下の様になります。
- 生まれつきの疾患ではない
- 円形状に脱毛する
- 脱毛部分は拡大することがある
- 一時的によくなったり、さらに悪化したりを繰り返す
- 医療機関の皮膚科を受診する脱毛疾患で一番多い
- 治療が難しい
- 髪の毛と爪に影響を及ぼすが、それ以外の体の部位には影響が出ない
- 生活の質(QOL)が大きく下がる
円形脱毛症の症状
円形脱毛症は、円形や楕円形の「脱毛斑」と呼ばれる、抜け毛跡が突然何の前触れもなく生じる疾患です。
10円玉程度の脱毛斑が1個できたあと、自然に治ることもあります。
しかし、脱毛斑の数が増え、それが徐々に繋がり、ほぼ全ての頭髪が抜け落ちてしまうこともあります。
個人差によりますが、症状が現れてから数週間で治る方もいれば、生涯に渡って脱毛症状が続く方もいます。
また、一度消えた脱毛斑が再び現れるなど、治ったと思っても再発してしまうなど、安心できない方も多く見られます。
初期症状
- 何の兆候もなく、突然脱毛が始まる
- 頭髪の一部の地肌が見える
- 爪に小さな凹凸ができる
- アトピー性疾患を患っている
- 脱毛斑が円形や楕円形で、境界が比較的はっきりしている
進行中の症状
- 朝起きた時、抜け毛が数本以上ある
- 脱毛斑の周囲の髪の毛を引っ張ると簡単に抜けるが、痛みはない
- 抜けた髪の毛はポキポキ折れやすい
- 脱毛斑が拡大する
回復期の症状
- 脱毛斑の一部に細く短い毛が生えている
- 脱毛斑に毛穴が点々と見られる
- 脱毛斑の周囲の髪の毛を引っ張っても簡単に抜けない
円形脱毛症の分類
円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲、形態などによって、大きく以下の5つに分類されます。
円形脱毛症の分類
- 単発型円形脱毛症:脱毛斑が1個のもの
- 多発型円形脱毛症:脱毛斑が複数個あるもの
- 全頭型円形脱毛症:脱毛斑が頭部全体に拡大するもの
- 汎発型円形脱毛症:脱毛範囲が眉毛やまつ毛、体毛など全身に拡大するもの
- 蛇行型円形脱毛症:頭髪の生え際が帯状に脱毛するもの
円形脱毛症は、普段より明らかに多く髪の毛が抜けるので、本人が自覚することができます。
円形脱毛症には、「急性期」と「固定期」があります。
「円形脱毛症かもしれない」と感じてから、10円玉程度の脱毛斑ができるまでの期間を「急性期」と言います。
急性期は、脱毛を感じてから約半年間続くと言われています。
急性期を超えると脱毛症状が固定されるようになります。
この期間を「固定期」と言います。
急性期と固定期の状態を見ながら、どの分類の円形脱毛症なのかを判断することになります。
合併症
円形脱毛症を発症することで、別の疾患を発症することがあります。
あるいは、他の疾患を発症や抱えているせいで、円形脱毛症を発症することがあります。
合併症とは、とある疾患を切っ掛けに生じる別の疾患のことです。
円形脱毛症の合併症には、以下の様な疾患があります。
円形脱毛症の合併症
- アトピー性疾患(アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎など)
- 甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病など)
- 自己免疫疾患
- 梅毒
- 糖尿病
- 尋常性白斑
- 関節リウマチ
- 全身性エリテマトーデス
- etc...
円形脱毛症の原因
円形脱毛症を発症する原因は、人によって異なり、様々な原因が考えられます。
近年では、髪の毛根組織に対して免疫機能に異常が発生する「自己免疫疾患」が主な原因とされていますが、アトピー性疾患や精神的ストレス、遺伝などが原因で発症する可能性があることも分かっています。
円形脱毛症は、以下の様な原因で発症します。
円形脱毛症の原因
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自己免疫疾患
円形脱毛症の主な原因は、毛包組織に対する自己免疫疾患とされています。
自己免疫疾患とは、本来は外部からの異物を排除し、体内を守るための免疫が、全く無害で正常な細胞や組織の一部を異物とみなし、攻撃するようになってしまう疾患です。
毛包組織は皮膚の一部で、毛包組織が髪の毛を作り、育てています。
しかし、免疫機能に異常が生じると、正常な働きをしている毛包組織を攻撃してしまい、髪の毛が痛んだり、髪の毛が作られなくなります。
T細胞(Tリンパ球)が毛根を異物と間違えて認識し、攻撃してしまうのです。
結果として、髪の毛が抜け落ち、脱毛斑となって症状に現れます。
アトピー性疾患
円形脱毛症は、アトピー性疾患を抱えている方が発症しやすいという傾向があります。
円形脱毛症患者の約40%以上がアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー性疾患を抱えていたというデータもあります。
本人や家族がアトピー性疾患を抱えていると発症しやすいとされています。
また、アトピー性皮膚炎の方は、円形脱毛症を繰り返しやすいと言われています
肉体的ストレスや精神的ストレス
円形脱毛症は、疲労や感染症などによる肉体的ストレスや精神的ストレスが引き金で発症することもあります。
強いストレスを受けると円形脱毛症になる、という話を聞いたことがあると思います。
また、円形脱毛症を発症した方の中にも強いストレスを受けた後に髪の毛が抜け始めたと感じる方もいます。
人はストレスを受けると交感神経が活発に動きます。
交感神経は、心肺を早く動かしたり、体温を上げるなどの働きがあり、体が様々なストレスと闘う準備をしてくれます。
しかし、ストレスを強く受けたり、長く続いたりすると、交感神経に異常をきたしてしまいます。
その結果、血管が収縮して、頭部への血流が悪くなり、毛根への栄養補給がスムーズに行き届かなくなり、脱毛が引き起こされると考えられます。
しかし、実際にはストレスが明らかな誘因ではないことが多く、ストレスが引き金になることはあるが、引き金にならない円形脱毛症の方が多いとされています。
遺伝
円形脱毛症は、年齢も、性別も、人種も関係なく誰でも発症する可能性がありますが、遺伝性については、否定できないレベルと考えられています。
欧米で行われたとある研究によると円形脱毛症の親がいる方の発症率は、そうでない方の約10倍もあるというデータがあります。
また、中国の調査によると、円形脱毛症患者の約8.4%は他の家族も発症しているとされています。
さらに、一卵性双生児の場合、両方とも円形脱毛症を発症する確率は約55%ということもわかっています。
円形脱毛症は、遺伝的要因が関係する可能性が高いと言えるでしょう。
女性ホルモンの変化
女性の場合は、出産後などの女性ホルモンの変化によって円形脱毛症を発症してしまうことがあります。
妊娠中、体内の女性ホルモン量は通常の約100倍以上も増加します。
しかし、出産後は一気に通常の女性ホルモン量に戻ってしまいます。
女性ホルモンには、発毛促進作用があり、通常量に戻る際に急激に減少するため、抜け毛が起こりやすくなります。
これが、毛周期の生え変わりの時期と被ってしまうと、円形脱毛症になってしまうことがあるのです。
さらに、アトピー性疾患を抱えている場合、円形脱毛症になりやすいというデータもあります。
男性には関係ありませんが、女性は、出産後の抜け毛には十分気をつけることが大切です。
円形脱毛症の治療方法
残念ながら、今のところ円形脱毛症を根治させる治療方法は確立されていません。
しかし、症状に改善が期待できる治療方法がないわけではありません。
円形脱毛症の治療方法をいくつかご紹介します。
円形脱毛症の治療方法
- ステロイドの使用(局所注射・点滴・内服薬・外用薬)
- 局所免疫療法
- 内服薬の使用
- 外用薬の使用
- 冷却療法(冷却治療)
- 紫外線療法
- 直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)
- かつらやウィッグの使用
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ステロイドの使用(局所注射・点滴・内服薬・外用薬)
ステロイドには、炎症や免疫機能を抑える効果があります。
そのため、自己免疫疾患による円形脱毛症の改善に効果が期待できます。
ステロイドの投与方法によって、発毛効果や副作用などが若干異なります。
ただし、ステロイドによる治療は、成長障害を起こす可能性があるため、小児には行うことはできません。
ステロイドに治療を受けることができるのは、基本的には大人だけです。
ステロイド局所注射
円形脱毛症が生じている個所(脱毛斑)に注射で直接投与する、「ステロイド局所注射」という治療方法があります。
発毛効果が高いため、単発型円形脱毛症や多発型円形脱毛症の治療には第1選択肢となります。
4週~6週に1回、注射する必要があります。
主な副作用としては、注射時に強い痛みを伴うことと、注射した部分が陥没する可能性があることです。
ステロイドパルス療法
ステロイドパルス療法とは、大量のステロイドを点滴で3日間投与する治療方法です。
発症から早期の段階で、脱毛が急速に進行し、広範囲にまで拡大してしまった場合に行われます。
大量のステロイドを一度に使うので、入院が必要となります。
主な副作用としては、不眠や動悸、頭痛、微熱、倦怠感などを引き起こす可能性があります。
ステロイドの内服薬
ステロイドには、経口内服薬(飲み薬)も存在します。
ステロイドの内服薬にも、発毛促進作用があることがわかっています。
脱毛が急速に進行し、広範囲にまで拡大してしまった場合に行われます。
主な副作用としては、肥満や糖尿病、生理不順、消化器不全などを引き起こす可能性があります。
また、ステロイドの服用をやめると、高い確率で脱毛が再発する危険性があります。
ステロイドの外用薬
ステロイドには、外用薬(塗り薬や貼り薬など)も存在します。
一般的な治療方法として多くの皮膚科で採用されており、日本国内では豊富な治療実績があります。
科学的な根拠となる研究報告がいくつもある、有効性が認められた治療方法の一つです。
1日に1回~2回塗ったり、貼ったりするだけで済みます。
ステロイドの外用薬は、発毛効果が弱いものの、ほとんど副作用がありません。
そのため、軽症の方から重症の方まで用いることができます。
通常、他の治療方法と併用して行われる治療方法です。
局所免疫療法
局所免疫療法とは、人工的に頭皮にかぶれを起こさせることにより発毛を促す治療方法です。
局所免疫療法は、年齢や性別などに関係なく受けることができます。
SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(Diphenylcyclopropenone)と呼ばれる化学物質を患部に塗ります。
約3カ月間~1年間以上、1週間~2週間に1度塗ることで、発毛効果を実感できるとされています。
治療を受けた約90%の方に有効性が見られています。
主な副作用としては、かぶれやじんま疹、リンパ節腫脹などを引き起こす可能性があります。
元々、アトピー性疾患を抱えていたり、湿疹、じんま疹がある方は、一時的に症状が悪化する事があるので、注意が必要です。
内服薬の使用
アトピー性疾患による円形脱毛症を治療するため、炎症やアレルギー反応を抑制する作用を持つ内服薬が使用されることがあります。
内服薬による治療では、主に「セファランチン」や「グリチルリチン」という成分が含まれる、アレルギー反応抑制作用や血流促進作用などの効果がある薬が使用されます。
主な副作用としては、胃の不快感や食欲不振などを引き起こす可能性があります。
外用薬の使用
外用薬による治療では、「塩化カルプロニウム」や「ミノキシジル」という成分が含まれる、発毛効果の認められている薬が使用されます。
脱毛箇所に直接薬剤を塗布する治療方法になります。
発毛効果は弱いため、他の治療方法と併用して行われるのが一般的です。
主な副作用としては、発汗やかゆみ、かぶれ、炎症などを引き起こす可能性があります。
冷却療法(冷却治療)
冷却療法(冷却治療)とは、脱毛部分にマイナス196℃の液体窒素やドライアイスをあて、免疫細胞の働きを抑えることで発毛を促す治療方法です。
ドライアイスを直接あてたり、液体窒素を脱脂綿や綿棒につけてあてるなどの方法があります。
また、液体窒素スプレーで直接噴射する場合もあります。
大きな副作用はなく、軽い痛みや赤みを一時的に生じるだけです。
通常、他の治療方法と併用して行われる治療方法です。
紫外線療法
紫外線療法とは、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの皮膚疾患の治療方法の一つです。
紫外線領域の特殊な光を皮膚にあてることで、免疫反応を抑え、発毛を促すことができます。
紫外線療法には、光の波長によって「PUVA(プーバ)治療法」や「ナローバンドUVB療法」、「エキシマレーザー療法」などの種類があります。
内服薬や外用薬による治療と併用することで、改善率が上がるとされています。
主な副作用としては、肌の炎症やかゆみ、色素沈着などを引き起こす可能性があります。
直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)
直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)とは、近赤外線という暖かい赤い光を照射することで、血行の改善や神経の乱れを正常な状態に戻すことができる治療方法です。
治療には、「スーパーライザー」という直線偏光近赤外線治療機器を使用し、誰でも簡単に治療を受けることができます。
この光の波長は、皮膚の奥まで届く特殊な赤外線のため、筋肉や関節の治療にも使われています。
通常、他の治療方法と併用して行われる治療方法です。
照射による副作用はなく、皮膚への刺激や痛みもありません。
かつらやウィッグの使用
かつらやウィッグを装着することが治療なのかと感じる方もいると思います。
しかし、海外では、かつらやウィッグは円形脱毛症の医療器具として認められており、公的医療保険の対象になっている国もあるのです。
症状を改善するような治療効果はありませんが、生活の質(QOL)の向上に役立ち、精神状態の改善が期待できます。
また、本物の髪の毛と同じように太陽からの紫外線や物理的な衝撃から剥き出しの頭皮を守ることもできます。
まとめ~「円形脱毛症かも?」と思ったら、まずは医療機関へ~
円形脱毛症は、とても辛い疾患です。
しかし、適切な治療方法を行えば、円形脱毛症の改善は十分期待できます。
そもそも、円形脱毛症ではない他の脱毛症の可能性もあります。
AGA(男性型脱毛症)であれば、AGA治療薬で治療することができます。
薄毛に関する疾患は様々な種類があるので、素人が判断することは難しいでしょう。
薄毛が気になり「円形脱毛症かもしれない」と思ったらなるべく早いうちに病院やクリニックなどの医療機関へ相談しに行きましょう。
スタッフより
クリニックコラムをお読みいただきありがとうございます!
いかがでしたでしょうか、参考にはなったでしょうか?
いま、なんらかの症状でお悩みのそこのあなた!
一人で悩まず、まずはご相談ください。